睡眠薬の飲み過ぎは苦しいだけ – 過剰摂取をやめるには
睡眠薬を使用する時、最も気をつけなければならないのが過剰摂取です。
睡眠薬の過剰摂取というと「自死」を連想しますが、眠れないからと言って自己判断で追加する方、他の薬と間違えて規定よりも多く飲んでしまう方も少なくありません。もちろん楽になりたい一心で睡眠薬を大量に摂取してしまう人もいるかもしれません。
結論から言うと、最近主流となっている睡眠薬や精神安定剤の過剰摂取で死ぬことはありません。とは言え、薬の過剰摂取は、楽になるどころか、さらに苦しい思いをすることになるのは間違いありません。
安全性がアップしている睡眠薬
過去の主流:バルビツール酸系
かつて主流にあったバルビツール酸系の睡眠薬は、大量服用によって呼吸停止の危険性がありました。これは強い催眠作用の反面、脳の呼吸を司る部位を抑制する作用があったためです。
実際、バルビツール酸系の睡眠薬の大量服用によって、脈拍は弱く速くなり、血圧が低下し、以下のような症状が現れます。
- 呼吸抑制
- 筋弛緩
- 舌根沈下
- 失禁など
定められた用量の5~10倍の量の服用で、簡単に死に至るのです。そのため、ひと昔前の小説、ドラマ、映画などでは、睡眠薬での自殺というシーンが少なくありませんでした。
このような経緯により、「睡眠薬の大量服用=命の危険」という図式が根付いていると考えられます。
現在の主流:ベンゾジアゼピン系
しかし、現在主流となっている睡眠薬は精神安定剤の一種です。精神安定剤には不安の鎮静作用以外に催眠作用があり、処方される睡眠薬はこの催眠作用が強い精神安定剤なのです。
主に使用されるのはベンゾジアゼピン系の薬です。これは脳にある神経伝達物質に関連する受容体に作用して催眠作用を起こします。つまり、呼吸や体温など、睡眠に直接影響しない機能や部位には直接作用しません。
このため、かつての睡眠薬に比べると大きく安全性が高まっており、死亡の危険性が劇的に下がっているのです。
安全性が高いとは言え、薬ですから致死量はあります。しかしそれは数千、数万錠という膨大な量です。現実的に考えて、命に関わるほどの量を誤飲することはないでしょう。
また明確な自殺願望によって大量服用しようとしても、実際に致死量の睡眠薬を入手するのは不可能に近いことです。手に入ったとしても人が一度に飲める数ではありません。
しかし、大量に服用すれば悪影響が出ます。眠れないから多めに飲む、追加するなど自己判断で増やすと不快な眠りにつながり、逆効果です。
医師は適正量を処方しています。自己判断での服用は避け、医師に相談しましょう。
睡眠薬を飲み過ぎたらどうする?
睡眠薬を服用する人の中には「辛い思いから逃げ出したい」という気持ちが強くなりすぎて、大量服用してしまう人がいます。
そのような状態を発見したら、まず救急車を呼んでください。その後は、意識がある、なしによって応急処置が異なります。
意識がある場合
意識がある場合は、薬がまだすべて吸収されていない状態です。
大量の水、ぬるま湯を飲ませて吐かせます。水で吐けない時は、ぬるめの牛乳を大量に飲ませます。牛乳は胃の中に粘膜を張って、睡眠薬の吸収を防ぐ効果があるからです。
吐かせることが大切ですが、口に指を突っ込むのは避けた方が良いでしょう。喉を傷つける可能性があります。
どうしても吐かないようなら、無理をせず救急車の到着を待ちましょう。到着までに「何をどれだけ飲んだかを調べ」、「容態をしっかり観察」しておくと、その後の処置に役立ちます。
意識がない場合
意識がない場合は、薬が吸収されている状態です。
横を向かせて気道を確保しておきましょう。薬物に限らず、仰向けやうつ伏せに寝かせると、吐き戻しが起きた時に吐しゃ物によって気道が詰まることがあります。
自力で横向きが難しい場合は、背中側に枕やクッションなどをはさむと安定します。
また、時間の経過により体温が低下しますので、毛布などで体を温めて救急車の到着を待ちましょう。
大量に服用しても、それが原因となって死ぬことはほぼありません。しかし、胃洗浄はかなり苦しい処置ですし、重大な後遺症が残ることもあります。
飲み過ぎや大量服用はしないように、くれぐれも注意してください。
睡眠薬を飲んでも眠れない時の対処法
睡眠薬は、早いものでは服用から15~30分程度で効き目を現します。布団に入ってゆっくりとした気持ちで眠気を待ちましょう。横たわって、ゆっくりと腹式呼吸を繰り返すと自然に眠気がやってきます。
しかし、リラックスした時間を過ごし、薬を飲んで横になってもなかなか寝付けないこともあります。
薬を飲んでもなかなか眠れないという状態が常であるようなら、薬が効いていないのかもしれません。早めに医師に相談しましょう。
逆に、普段は薬で眠れるけれど、たまに薬の効き目が感じられないという場合は、精神状態や睡眠環境に問題があるのかもしれません。そんな時は、次のことを試してみて下さい。
心配事や悩みが頭に浮かんで寝付けない場合
信頼できる友人や家族と雑談をする、紙に問題と気持ちを書き出すなどしてみるとよいでしょう。
話をしたり、問題を書き出すという行為は、ストレスを吐き出す、問題を整理する、気持ちを切り替えるなどの効果があります。
漠然とした不安や気持ちのざわつきを感じる場合
心配事などがある時と同様、信頼できる友人や家族との雑談は効果があります。また、以下のようなリラックスできることをして、眠気が訪れるのを待ちましょう。
- 詩集や紀行文、画集、写真集などの軽い読み物を読む
- ホットミルクを飲む
- アロマで芳香浴をする
- リラクゼーション音楽を聴く
心の緊張をほぐすことで薬の効果を感じられることがあります。
睡眠環境を見直しましょう
睡眠には適した環境があります。室温は夏25℃、冬15℃、湿度は50%が理想です。
我慢できるからと、暑さ、寒さを我慢すると、寝つきの悪さだけでなく、眠りの質の低下にもつながります。
薬を飲んでもどうしても眠れない場合でも、自己判断で薬を追加することだけは避けましょう。そのような時は、一旦布団から出て、眠気を待つことが得策です。
確かに、眠りにつくのが遅くなりますから、翌日、多少は寝不足による影響が起きるかもしれません。しかし、逆にそのことが、その日の寝つきや眠りの質の向上につながることもあるのです。
眠れないのに無理に布団にいると、「布団に入ると不安を感じる」「布団ではゆっくり眠れない」と脳が誤って認識してしまうことがあります。このため、眠れないことに焦り、薬の飲み過ぎにつながりかねません。
また繰り返しになりますが、睡眠薬を大量服用しても死の直接原因にはなりません。大量服用は苦しいだけとしっかり認識しておきましょう。