マイスリーに依存しないために – 改善の努力が大切
マイスリーの服用が長くなると「マイスリーに依存しているのではないか」と考える人もいますが、必ずしも依存しているとは限りません。
確かに睡眠薬による依存はあります。しかし、寝つきが改善されない原因の多くは「眠りを取り戻す取り組みが不十分」「眠れないという思い込み」によるものです。
ここでは、睡眠薬による依存と、眠るための取り組みについて説明します。
依存とは?
薬物依存とは、「その薬物の使用をやめようとしても、容易にやめることができない生体の状態」を指します。
これには「精神依存」と「身体依存」の二種類があります。
精神依存
依存性薬物の摂取開始から2~3か月で形成されます。薬物を摂取することで強力な陶酔感、多幸感を感じ、この感覚を得たいという欲求から依存につながります。
身体依存
依存性薬物を摂取すると、呼吸や脈拍などの機能に影響を受けます。本来ならこれは異常な状態です。しかし身体依存が形成されると、薬の薬効が体内にあることが自然な状態と身体が認識し、薬物を摂取しても正常に機能するようになります。つまり「正常な状態」が逆転してしまうのです。
このため、薬効が減弱または消失すると異常な状態と判断してしまい、薬への異常な渇望が生じます。また以下のような症状が起こります。
- 精神症状:不安、落ち込みなど
- 身体症状:食欲低下、頭痛、めまいなど
- 離脱症状:知覚過敏や金属味などの知覚障害など
マイスリーってどんな薬?
マイスリーの添付文書には、薬品名の横に「入眠剤」と記載されています。その名の通り、眠りに入りやすくする「超短時間作用型」の薬です。
服用から1時間未満で効果が最大に達し、5~6時間で消滅します。寝つきをよくする薬と言えます。
現在の睡眠薬の主流は、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の2系統です。どちらも脳内のGABA受容体という部分にある、ベンゾジアゼピン結合部位に作用します。作用する場所は同じですが、非ベンゾジアゼピン系は作用する受容体を選択することができます。
マイスリーはω1受容体と呼ばれる、催眠作用に影響する部分に、選択的に作用する非ベンゾジアゼピン系睡眠薬です。このため、統合失調症、うつ病、躁うつ病など不安傾向がある病気に伴う不眠には効果が期待できません。
ベンゾジアゼピン系 | 非ベンゾジアゼピン系 | |
ベンゾジアゼピン骨格 | あり | なし |
作用する受容体 | ω1受容体、ω2受容体 | ω1受容体 |
作用効果 | 抗不安、筋弛緩、催眠 | 催眠 |
依存になる原因
ベンゾジアゼピン系(非ベンゾジアゼピン系を含む)睡眠薬は耐性が生じにくく、高用量の乱用や依存への発展はまれで、安全性が高いと確認されています。それにもかかわらず「依存」の問題が大きく取り上げられる理由は、以下の2つが挙げられます。
- 常用量依存
- 自己判断による中断の失敗による離脱困難
常用量依存は、ベンゾジアゼピン系(非ベンゾジアゼピン系含む)睡眠薬を、適正量の範囲内で継続的に服用していた場合に起こる依存です。服用中は特に変わった症状などは起こらず、減薬・断薬に移行した時に初めて、依存の形成が認識されます。
【服用期間】
服用6~8か月で依存が形成されると言われていますが、実態は明らかではありません。
また、中間作用型~長時間作用型よりも、超短時間作用型~短時間作用型の方が離脱症状の発現や早期発現が多いことが分かっています。
【用量】
高用量が問題とされていましたが、用量による離脱症状の内容や強さには大きな差がないことが分かってきました。
このため、用量から依存を予測することは困難だと言えます。
【アルコール】
依存は一定の期間をおいて形成されますが、アルコールと併用すると依存性が急速に形成されることが分かっています。
睡眠薬服用中は、強い意志をもってお酒を断つ方が良いでしょう。
【体質】
睡眠薬に限らず、同じ薬を同じ期間服用したからと言って、同じ反応が起きるわけではありません。個人の体質、受容体との親和性によっても異なります。
依存しないための付き合い方
常用量依存は、薬をやめることになって初めて分かる依存性です。服用期間による依存性の形成は明らかではありませんが、早期に薬をやめることができれば、それだけ離脱症状に悩まされずに済みます。そのためには、眠りを取り戻す努力が必要です。
睡眠状況を医師としっかり把握する
マイスリーを服用中に自然な眠気を感じることが増えて来たら、医師に相談しましょう。眠気を感じるようになるというのは、改善の兆しとも言えます。
しかし、自己判断でいきなりマイスリーを中断すると、症状の再発や離脱症状が起きることもあります。繰り返すと依存に陥る可能性が高まります。
眠気はあるが眠れない、なかなか寝付けない、寝付けるが夜中に目が覚める、寝付けるし十分ではないが眠りは足りているなど、医師と状況の共有をすることが、安全に薬をやめるためには大切なことなのです。
アルコールと併用しない
アルコールとの併用が依存性の形成を早めることはすでに述べました。しかし、問題はそれだけではありません。
アルコールと睡眠薬では、肝臓はアルコールを先に分解・排出します。このため、睡眠薬の作用が翌日に残ってしまいます。
寝つきを良くするためには睡眠リズムを調整する必要があり、睡眠薬が有効です。しかし、薬の作用が翌朝に持ち越されると、覚醒が遅れ、睡眠に作用する分泌物の放出が遅くなってしまうのです。
睡眠薬以外の改善努力をする
①生活習慣
眠れない、寝付けない人の多くにとって、生活習慣を改善することが、睡眠リズムの改善に大きく役立つことが分かっています。まずは、生活習慣のチェックをしてみましょう。
- 毎朝決まった時間に起床している
- 起床したら朝日を浴びている(光を見ている)
- 決まった時間にしっかりと噛んで朝食を食べている
- 適度な運動を習慣にしている
- 栄養バランスの取れた食事を心がけている
健康的な睡眠リズムを維持するために、最も大切なのは起床から数時間の行動です。
【光を見る】
覚醒と睡眠のリズムを刻む体内時計は、光の影響を受けています。しかし大切なのは、「目」で感じることです。体内時計をリセットする視交叉上核は目の奥にあり、この部分が覚醒時間を認識することでメラトニンの分泌が止まります。
起床したらカーテンを開け、意識して光が差すところを見るようにしましょう。
【決まった時間に起床する】
体内時計のリセット以上に大切なのが、起床時間です。体内時計は、起床から14~16時間後に、睡眠ホルモン「メラトニン」を分泌するようにセットされています。
平日に6時起床を心がけていても、休日に9時まで寝てしまうと、眠気の訪れはそこから14~16時間後です。これでは、平日に整えた睡眠リズムが崩れてしまいます。寝すぎても1時間程度にし、疲れている時、長く眠りたい時は早めに就寝するようにしましょう。
【適度に運動する】
寝つきを改善するためには活動量のバランスを取ることも大切です。現代社会では、肉体の活動量に比べて脳の活動量が多くなりすぎる傾向にあります。脳は疲れているのに体は疲れていない、このアンバランスを改善することは、睡眠、自律神経、ストレスといった問題の解決に大きく役立ちます。
しかし、運動経験の少ない人にとってはハードルの高い課題でもあります。まずは、一人でできる苦痛にならない程度の運動から始めてみましょう。
その場で大きく腕を振りながら足踏み、腕を交差しながら膝の曲げ伸ばしをするスクワット、階段を使っての踏み台昇降などがおすすめです。
【しっかりと咀嚼する】
同じ運動を繰り返すリズム運動は、メラトニンの増加につながります。最も間単なリズム運動は「咀嚼」です。食事をするときにしっかりと噛むことも、睡眠リズムを維持することに役立つことを覚えておくと良いでしょう。
【栄養バランスの良い食事をとる】
栄養バランスをとるために不可欠なものが食事です。食品に含まれる栄養素は、体を機能させるホルモンや神経伝達物質などの原材料です。起きる、動く、眠るなど活動しようとしても、必要な物質が不足していては満足に機能することができません。
睡眠に特に必要だと言われるのがトリプトファンですが、栄養素は互いに協力し合い、補助し合うことで役割を果たします。まずは、色々な食品を色々な調理方法で食べることを意識しましょう。
②考えすぎへの対策
寝付けない人の多くが、何かしらの悩み、不満、不安など心に問題を抱えていることがあります。
しかし、眠るためにはリラックスした状態が必要です。就寝前1時間は問題を自分と切り離し、脳が眠れる状態を作るように努めましょう。
自律訓練法は、呼吸を整え意識をリラックスに集中させることで、休息を司る「副交感神経」の働きを促進します。自己催眠の一種で、緊張しやすい、不安になりやすい人にもおすすめです。
部屋の照明を抑え、アロマを漂わせる、リラクゼーション音楽を聴く、ストレッチやヨガで筋肉のコリをほぐすなども効果があります。
自律訓練法、ストレス対処法については以下の記事をご覧ください
③睡眠への考え方を変える
不眠は、眠りに必要な物質の不足が主な原因ですが、脳の誤認によって眠れなくなっている場合も少なくありません。中でも、ソファーで横になるといつの間にか眠っている、眠気を感じるのに布団に入ると眠れないという人はこのタイプかもしれません。
布団に入って眠れない時は、一度布団から出て、リラックスしながら眠気がくるのを待ちましょう。眠れないと思いながら布団にしがみついていると「布団=眠れない」という誤認を増強してしまいます。
また、布団に入ってIT機器を操作する、本を読むといった「眠る」以外での布団の使用はやめたほうが良いでしょう。脳に「布団=眠る場所」としっかり認識させることが大切です。
マイスリーに限らず、どんな薬にも副作用はあります。依存性はその一つですが、メリットに比べれば大きな問題ではありません。特に、現在主流となっている睡眠薬の成分は、依存性・耐性ともに低い安全なものです。しかし、長期間の服用は、常用量依存に陥る可能性を高めます。
睡眠薬は、健康な眠りを取り戻すためのサポートだと認識し、眠れる体を作る努力をしましょう。そして、自然に眠気を感じるようになったら医師と相談して断薬に取り組みましょう。