新しい睡眠薬と既存の睡眠薬の違いは?
「新しいタイプの睡眠薬」「安全性がさらに高まった睡眠薬」として紹介されることが多いのが、「ロゼレム」と「ベルソムラ」です。
現在主流となっているベンゾジアゼピン系睡眠薬と、具体的にはどのように違うのでしょうか?
薬の働き、副作用、依存性について、また薬を早くやめるための方法についてもご紹介します。
安全性が高いと言われている2つの薬
どんな薬でもメリットとデメリットがあります。
睡眠薬の最大のメリットは「睡眠を確保」することです。そして、最大のデメリットは「依存性」だと考えられています。
しかし、現在主流となっている睡眠薬でも、実際にはそれほど高い依存性はみられません。
「新しいタイプの睡眠薬」として発売された「ロゼレム」「ベルソムラ」は、これまでの「ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」とは異なる部分へ働きかけます。
「ロゼレム」は、耐性・依存性ともに認められないとされており、大きな利点となっています。
「ベルソムラ」は臨床試験では耐性、依存性は認められないと報告されていますが、添付文書では「習慣性医薬品」と分類されています。
現時点では明確ではないものの、依存性があったとしても非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と同程度またはそれ以下だと考えられています。
従来の睡眠薬 | 2010年発売 | 2014年発売 | ||
ベンゾジアゼピン系 | 非ベンゾジアゼピン系 | メラトニン受容体作動薬 | オレキシン受容体拮抗薬 | |
薬品名(一般) | デパス、レンドルミン、ロヒプノールなど | マイスリー、アモバン | ロゼレム | ベルソムラ |
効能 | 不眠症 | 不眠症 | 入眠困難の改善 | 不眠症 |
習慣性医薬品指定 | あり | あり | なし | あり |
主な副作用 | めまい、ふらつき、眠気、倦怠感、頭痛・頭重など | ふらつき、眠気、倦怠感、頭痛・頭重など | 傾眠、頭痛、倦怠感、めまいなど | 傾眠、頭痛、疲労感、ふらつき、悪夢、睡眠時麻痺(金縛り)など |
それぞれの睡眠薬の働き方
「メラトニン受容体作動薬」であるロゼレムと「オレキシン受容体拮抗薬」であるベルソムラが新しいタイプと言われるのは、睡眠を促すために働きかける部位(作用機序)が違うためです。
ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳にあるGABA-A受容体に存在するベンゾジアゼピン結合部位に作用して、催眠作用などを増強します。
このベンゾジアゼピン受容体は、さらにω1(α受容体)とω2(α2、α3、α5受容体)の二つに分けられます。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はω1に選択的に結合します。このため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて耐性、反跳性不眠、筋弛緩が緩和されます。
ベンゾジアゼピン系 | 非ベンゾジアゼピン系 | |
ベンゾジアゼピン骨格 | あり | なし |
作用する受容体 | ω1受容体、ω2受容体 | ω1受容体 |
作用効果 | 抗不安、筋弛緩、催眠 | 催眠 |
メラトニン受容体作動薬
メラトニンは脳の松果体(しょうかたい)から分泌され、体内時計、免疫、睡眠、生殖機能などに作用する生体ホルモンです。
メラトニン受容体作動薬「ロゼレム」は、メラトニン受容体MT-1「視交叉上核(しこうさじょうかく)の発火を抑制し、睡眠を促進する作用」とMT-2「サーカディアンリズムをシフトさせる作用」に高い選択性を持ちます。特にMT-1に対して作用することで入眠を促します。
ロゼレムはメラトニンとほぼ同じ働きをすることで、睡眠を誘発し寝つきを良くする薬です。
また添付文書では、以下の人には「治療上の有益性と危険性を考慮し、必要性を十分に勘案した上で慎重に行うこと。」と注意喚起がされています。
- すでに睡眠薬を服用している人
- 抗不安薬を服用している人
- 抗うつ薬ルボックス、プロメールを服用している人
十分な薬効を得られるのは、うつ病などの精神疾患を伴わず、寝つきが悪いタイプの人と言えます。
習慣性医薬品の指定がない唯一の睡眠薬でもあり、安全性は最も高い薬です。しかし、他の睡眠薬からの安易な切り替えはできない薬でもあります。
オレキシン受容体拮抗薬
オレキシンは脳内の神経伝達物質の一つで、覚醒に関与します。
視床下部(ししょうかぶ)の神経細胞で作られたオレキシンが、覚醒中枢にあるオレキシン受容体に結合することで覚醒が促されます。
オレキシン受容体拮抗薬「ベルソムラ」は、オレキシン受容体に結合することでオレキシンの結合を阻害し、覚醒を抑制します。つまり、覚醒維持をストップすることで眠れるようにしているのです。
効果としては、「入眠障害」「中途覚醒」どちらのタイプにも使え、マイスリーに近い万能タイプと言われています。
ただし「ロゼレム」同様、「ベルソムラ」も抗不安作用はありません。
また、併用禁忌(飲み合わせによって副作用が起きたり、薬の効果が強くなったり、弱くなったりする)の成分も8成分と、他の睡眠薬よりも多いので注意が必要です。
すでに服用中の薬がある、またはベルソムラを服用中に他科で新たな薬が処方された場合には、必ず医師に報告・相談しましょう。
睡眠薬と上手に付き合うためには
睡眠薬を常用している人の中には、「睡眠薬を飲んでいれば睡眠が改善され、いずれ自然に眠れるようになるだろう」と考えている人が少なくありません。
しかし、これは大きな間違いです。
確かに睡眠薬は眠りをサポートしていますが、あくまでもサポートであって改善しているわけではありません。また「メラトニン受容体作動薬」や「オレキシン受容体拮抗薬」も、安全性が高まっているとはいえ、漫然と服用して良いものではありません。
自分で自然に眠れるように努力をし、睡眠薬の服用は短期間に抑えることが大切です。
睡眠を取り戻すためにやるべきこと
精神的な問題を伴わない不眠に悩む人は、生活の根本に問題がある場合がほとんどです。実際に、これらの問題が解決することで自然な眠りを取り戻す例は多くあります。
自分の生活に問題がないか、以下のチェック項目を見直してみましょう。
〇 or × | ||
生活習慣 | 毎朝決まった時間に起床している | |
休日の寝坊は1時間程度 | ||
午前中を明るい場所で過ごしている | ||
就寝前は刺激物を控えている | ||
IT機器の操作は就寝1時間前には終えている | ||
食事 | 朝食をしっかりと噛んで食べている | |
食事の時間が決まっている | ||
一日を通して栄養バランスのとれた食事をしている | ||
運動 | 週に3回程度、30分以上の運動をしている | |
日常生活の中で歩く機会を増やしている | ||
ストレス | 積極的にストレス解消法を実践している |
すべてできている人はほとんどいないでしょう。しかし、これらが睡眠に大きな影響を与えているのは事実です。改善できることから取り組み、自然な眠りを取り戻しましょう。
睡眠と生活の関係については以下の記事をご覧ください。