不眠の改善には「基本を正す」ことが最大の対処法

夜になると眠れない

眠れないという症状を訴える人の中には、睡眠の質を損なう生活をしている方が多くみられます。実際に生活を改善することで不眠が解消されることは多くあります。

しかし、睡眠時間が不規則だという自覚はあっても、生活全体に問題があることを自覚している人は多くありません。これは、「健康を維持するための生活」の基本の認識「健康=睡眠」という意識があいまいなためだと思われます。

そこで、生活・睡眠・健康の視点から「正しい生活」を解説します。

睡眠と健康の関係

不眠の改善

眠れなかった翌日は眠気が続き、頭がしっかりと働きません。また体がだるく、動きが鈍ります。メンタルにも、イライラ、焦り、落ち込みやすい、ストレスを感じやすいといった影響が現れます。
寝不足が慢性化するとこれらの症状も慢性化します。その結果、肥満、糖尿病、うつ病といった一見睡眠と関係のない問題が引き起こされます。

なぜ睡眠が不足すると健康に影響が現れるのかというと、睡眠は脳、肉体、精神が受けた「ダメージを修復する時間」だからです。

睡眠中は、レム睡眠ノンレム睡眠が、「1セット90分」として3~4回繰り返されます。
レム睡眠では脳は活動し、記憶や感情を強化する働きをしています。一方ノンレム睡眠では、体温、血圧、脳内活動などすべての生理的機能が低下し休息状態になります。また深い眠りの第3、第4段階のノンレム睡眠中には、一日に必要な人体成長ホルモンが脳から体へ放出されます。

  レム睡眠 ノンレム睡眠
眠りの深度 浅い 深い
脳の状態 活動 休息
体の状態 休息 休息
(ただし筋肉は働いている)
役割 記憶の固定、感情の強化、筋肉の疲労回復 ストレスの消去、ホルモンの分泌
時間 10~20分 70~80分

上記のように、レム睡眠、ノンレム睡眠にはそれぞれはっきりした役割、特徴があります。

睡眠時間を長くとっても、日中に眠気が続いたり眠った気がしないのは、それぞれの役割が十分に果たせていないことが原因です。
つまり、睡眠には時間と質の両方が大切なのです。

ポイント1 生活改善

目覚まし時計

私たちには、やりたいこと、やらなくてはいけないことがたくさんあります。これをすべてやろうとすると、何かを削らなければなりません。この時「無意識に削るもの」が、睡眠に障害を及ぼす原因になっています。

生活習慣のチェックをして自分が何を「削っている」のかを把握しましょう。

【生活習慣のチェック】

  • 毎朝決まった時間に起床している
  • 決まった時間にしっかりと噛んで朝食を食べている
  • 栄養バランスを考えて食事をしている
  • 適度な運動を習慣にしている

ポイント2 起床時間の固定

私たちの体には多くのプログラムが組み込まれています。その一つが、睡眠と覚醒の周期「体内時計」です。
体内時計は24時間の周期から10分~1時間ずれており、リセットしなければ、眠る時間も1時間程度ずつ遅れていくことが分かっています。

体内時計のリセットは、脳の中心部下面にある視床下部の視交叉上核(しこうさじょうかく)で、強い光を感知することで行われます。そして強い光の感知から約16時間後に、睡眠物質が分泌されます。

視交叉上核

人間の体は、体内時計が正しく機能し起床後に強い光を浴びれば、約16時間後には眠気が誘発されます。しかし、リセット時間がズレたりリセットが行われなければ、眠気が訪れる時間がズレ、眠れない、眠りが浅いなどの睡眠障害が起きるのです。

平日は決まった時間に起床しても、休日は昼近くまで寝てしまう人も少なからずいるでしょう。
しかし、これは平日に作ったリズムを崩してしまう行動です。起き辛い朝も、寝坊は1時間以内にし、夜早く就寝するようにしましょう。

ポイント3 食事

yusyoku

食事がなぜ睡眠と関係があるのか不思議に思う方もいるでしょう。
私たちの体が正常な活動をするためには、脳から必要量のホルモンが分泌され、正常にその役割を果たす必要があります。このホルモンの原材料が食事から摂る栄養素なのです。

必要な栄養素が不足すると原材料不足のため、必要な時に必要な量のホルモンが生成できません。このため、体の各器官が正しく機能することができず、心身に不調が現れます。

睡眠に必要なホルモンは「メラトニン」です。メラトニンは、休息を促進する副交感神経を優位にし、覚醒から睡眠への切り替えを行い、入眠をスムーズにする働きをします。
メラトニンは、トリプトファン(必須アミノ酸)を元に体内で生成されます。トリプトファンは分解されてセロトニンに変化し、その後さらに分解されメラトニンとして再合成されます。

トリプトファン_セロトニン

ですから、メラトニン生成のためには、トリプトファンを積極的に摂りましょう。

【トリプトファンを多く含む食品】

食品 可食部 トリプトファン含有量
白米 100g 89mg
そば 100g 192mg
まぐろ(赤身) 100g 300mg
あじ 50g 115mg
鶏むね肉皮つき 100g 220mg
豚ロース 100g 230mg
鶏卵 60g 108mg
糸ひき納豆 50g 120mg
ごま 6g 22mg
プロセスチーズ 36g(2枚) 104mg
牛乳 200g 82mg

トリプトファンはタンパク質に多く含まれています。ただし、それだけを食べれば良いわけではありません。

忘れてはならないのは、「栄養素はお互いに協力、合成して必要なホルモン物質を形成する」ということです。偏った食品を食べても思うような効果は得られません。主食、副食、主菜、牛乳・乳製品、果物をバランスよく食べることが前提です。

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精神安定や不眠改善に必要なトリプトファンは、500~1000mgと言われています。
朝食を「ごはん、高野豆腐の味噌汁、卵焼きまたは糸ひき納豆」にした場合、約300mgのトリプトファンが摂取できます。
昼食や夕食に、鶏むね肉のソテー、ハンバーグ、グラタン、あじの煮付けなどをメインに、野菜や果物をバランスよく組み合わせると、トリプトファンやその他の必要な栄養素が摂取できるでしょう。

ポイント4 運動

運動には、ストレス解消や健康維持、脳と身体の疲労のバランスを取る他に、セロトニンを活性化する効果があります。
セロトニンは、メラトニンに再合成されて睡眠を促します。そしてセロトニンが増えると、メラトニンも増えます。

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運動は目的によって内容を変える必要があります。睡眠を改善するためなら、同じ動作を繰り返すリズム運動が適しています。
最も手軽で簡単なリズム運動は「咀しゃく」です。特に起床後最初の食事は、睡眠中に消費した栄養素の補給、内臓の活発な運動と脳の覚醒を促します。さらに、しっかりと噛むことで睡眠に必要なメラトニンを増やす効果もあるのです。

しかし、ストレス解消、疲労バランスの調整、積極的なメラトニン増加に取り組むためには、体を動かす運動は不可欠です。
ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどを、週3回、30分~1時間行う習慣をつけるとよいでしょう。

とは言え、これまでに運動習慣のない人にはハードルが高いかもしれません。運動は継続することが大切です。自宅で一人でできる運動から取り組んでみましょう。
その場で大きく腕を振って足踏みをする、毎朝ラジオ体操をする、テレビを観ながらできるスクワットなどがおすすめです。

ポイント5 就寝前の行動

smartphone

不眠を訴える人は、眠る前に眠りを阻害する習慣を持っていることがあります。就寝前の行動を見直してみましょう。

睡眠に不適切な行動

就寝前には、神経を高ぶらせる、筋肉、内臓を必要以上に活性化させる行動は不適切です。

【睡眠を阻害する行動】

  1. 多量の飲酒、または日常的な就寝前の飲酒
  2. 就寝前の食事
  3. 就寝前のコーヒー、お茶、ドリンク剤などのカフェイン摂取や喫煙
  4. 入眠直前までのIT機器操作

【多量の飲酒、または日常的な就寝前の飲酒】
アルコールには催眠作用があります。このため睡眠薬代わりに飲酒する人もいるようですが、これは逆効果です。
私たちには「睡眠恒常性」という、肉体や脳の疲労に応じて眠りの質をコントロールする機能があります。アルコールはこの「睡眠恒常性」に影響し、眠りの質を低下させます。

また飲酒の習慣や多量の飲酒は、アルコールへの耐性形成につながります。耐性が形成されると、飲酒を止めることで不眠が起こります。
この不眠が辛いために再び飲酒を習慣にしますが、耐性が形成されているため量を増やさなければ不眠症状が生じます。
アルコールにはリラックス効果もありますが、習慣にするにはデメリットが大きいことを認識しておきましょう。

【就寝前の食事】
就寝前の食事は胃が消化活動中なため、睡眠の質の低下につながります。

【就寝前のコーヒー、お茶、ドリンク剤などのカフェイン摂取や喫煙】
一方、コーヒー、紅茶、ウーロン茶などに含まれるカフェインには、覚醒作用と利尿作用があります。このため、就寝前のコーヒーやお茶の摂取は入眠の妨げとなります。
また就寝中に尿意を催し、途中覚醒の原因にもなります。就寝前に栄養ドリンク、美容ドリンクを飲む習慣の人もいるようですが、カフェイン、アルギニン、カリウムなどが入っていないか確認してみましょう。

カフェイン同様、タバコに含まれるニコチンにも脳を覚醒させる作用があります。就寝前に一服する習慣は睡眠にとって好ましくないことと心得ましょう。

【入眠直前までのIT機器操作】
眠れないからと、眠気が来るまでIT機器を操作しているという人も少なくありません。しかし、夜間でも明るい光にさらされていると、体内時計のリズムを崩しメラトニンの分泌量も減ってしまいます。
安定した質の良い睡眠をとるためには、少なくとも就寝の1~2時間前には照明を少し暗くして、メラトニンがしっかりと分泌される環境をつくりましょう。

良い睡眠を得るために効果的なこと

温泉

必要なホルモンが分泌され体は眠る準備を整えていても、活動を司る交感神経が優位に立っていては上手く眠れません。休息を促す副交感神経を優位に立たせる必要があります。

副交感神経を優位にするには、適度に体を温めること、気持ちを開放することが効果的です。睡眠の1時間前は、眠るための準備時間だと意識して過ごしましょう。

【睡眠前に適したリラクゼーション】

  • 38~40℃のぬるめのお湯で10分以上の入浴
  • ヨガ、ストレッチといった軽い運動をする
  • アロマを部屋に漂わせる
    (ラベンダー、オレンジ・スイート、カモミール・ローマン、クラリセージなど)
  • リラクゼーション・ミュージックを聴く

必要なのは流されない態度

やりたいこと、やらなくてはならないことが多いと、私たちは理由をつけてそちらを優先してしまいがちです。これは気持ちを優先させているためです。

しかし辛い不眠の症状を解決したいのなら、気持ちや状況に流されない態度で、「24時間に合わせた正しい生活」を心がけましょう。

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