気分障害(うつ病)と不眠症 – 「眠れない」うつの始まり
うつ病は、不眠症を併発させる代表的な精神疾患とも言えます。うつ病に悩む患者さんのほとんどは、長く続く不眠の症状に悩まされています。
また、不眠症で長く苦しんでいた方がうつ病を引き起こすという逆のケースもあります。
気分障害(うつ病)に伴う不眠症
うつ病に伴う不眠症には、特徴的な症状があります。
- 深夜から明け方に目が覚める(早朝覚醒)不眠症になりやすい。
- 夜間だけに限らず、昼間も眠れないことが多い。
- 本人は、自身がうつ病だと気付いていないことがある。
それぞれの特徴を、以下にひとつずつ解説していきましょう。
早朝覚醒が起こりやすい、うつ病の不眠
早朝覚醒とは、明け方近くに目が覚めてしまい、再び眠ろうとしてもなかなか寝入ることができない辛い症状です。
ところで、ここでいう早朝というのは、朝の5時や6時ではなく、もっと早い時間の事が多いようです。
具体的には、夜の12時頃に就寝したにも関わらず、早朝4時や、もっと早ければ3時頃に目が覚めてしまうこともあります。これが早朝覚醒の辛い症状です。
うつ病に伴う早朝覚醒は、他にも、以下のような症状が現れることがあります。
- 意欲の低下
- 憂うつ感
- 食欲不振
- イライラ
昼も夜も眠れない – 常に不眠の症状を伴う
うつ病に伴う不眠症は、夜だけではなく昼間も眠れないという特徴があります。
一般的な不眠症の場合、夜間に眠れなければ、昼間に眠くなる(または実際に眠る)のが普通です。
しかし、うつ病の患者さんの場合、健全な睡眠をとれている方の半分程度しか眠れていないにも関わらず、日中も夕方も眠くなる事がないのです。
なぜうつ病の患者さんは、これほどまでに、眠くなる事が少なくなってしまうのでしょう?
うつ病患者さんに不足する、睡眠物質
脳で作られる睡眠物質は、起床している時間が多いほど蓄積されていきます。
脳内で分泌される、睡眠を促す物質。睡眠薬のような人工的なものとは異なり、自然な睡眠を促す。
人体で確認されている物質の場合、睡眠時に分泌されるメラトニンなどの、睡眠を誘発する成分がこれに当たる。
しかし、うつ病の患者さんは、うつ病でない方と比べると、この睡眠物質の量が明らかに不足している事が分かっているのです。
通常、一晩眠らずにいると十分な睡眠物質の量が蓄積されますが、うつ病患者さんでは二晩程度もかかると考えられています。
不眠症の治療法の一つ断眠療法は、一晩全く眠らずに過ごして睡眠物質を脳に溜めることで、次の日からしっかり眠れるようにするという治療法です。
睡眠物質の蓄積を利用したこの治療法は、現在でも治療に用いられる事があります。
自覚症状のない、うつ病の初期段階
うつ病の患者さんは、往々にして、症状がひどくなってから初めてうつ病の発症に気づくということがあります。
うつ病の初期の段階では、本人がなかなか気づきにくいというのも、うつ病の特徴的な症状でもあるのです。
不眠の症状は、初期のうつ病の中でも、最初に現れることの多い症状でもあります。「最近、よく眠れない・・・」という状態の頃は、まだ深刻なうつ病ではない場合がほとんどなのです。
本人はうつ病であるとは全く気付いていないのですから、当然、医療機関を受診する際は不眠の症状だけを訴えます。
しかし、問診を受けてみて初めて、自分が軽度のうつ病を発症しているということに気づくのです。
うつ病初期の不眠の治療
症状の程度や診察する医師にもよりますが、この段階でもうつ病の傾向が認められれば、抗うつ剤を処方することがあります。また、抗うつ剤と一緒に、睡眠薬が処方されることもあります。
軽度のうつ病であれば、抗うつ剤の処方によって不眠の症状がすぐに改善したという例が多く報告されています。
- 精神科や心療内科では、問診によって不眠にうつ病が内在していないかを診断する。
- 初期のうつ病の場合、抗うつ剤を処方すると有効に作用することがある。
- 抗うつ剤と、睡眠薬を並行して処方されることもある。
もちろん、薬物治療ばかりではなく、うつ病の治療には認知療法や精神療法も有効です。うつ病の場合、薬物治療だけに頼るのではなく、こうした治療法を検討してみるのも、根本的な症状の改善には重要なのです。
不眠の症状が長く続くようであれば、うつ病を疑ってみる必要はあるでしょう。
繰り返しになりますが、軽度の段階でのうつ病は、本人が気づかないことが多いものです。早朝覚醒や、昼も夜も眠れないといった症状が続く、これらに伴って、憂うつ感や精神が不安定な状態が続く場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。