睡眠薬の習慣性の正体とは – 習慣性を回避する方法
誰にでも、ストレスや不安で眠りたくても眠れない状態に陥ることがあります。
最も大切なのは、根本原因にあるストレスや不安を取り除くことです。しかし、これには時間がかかることがあるでしょう。
その間、眠れない状態を放置することは得策ではありません。睡眠薬や抗不安薬といった、睡眠をサポートする薬を利用することが、症状を悪化させないためには有効です。
そんな時、睡眠薬を使う上で心配なのは、「習慣になるのではないか?」「飲まないと眠れなくなるのではないか?」という心配です。
そこで、睡眠薬の習慣性とそれを回避する方法について解説したいと思います。
習慣性(依存)の正体とは
眠れない期間が続くと、心身ともに疲労が蓄積されます。
不眠は、身体的にはだるく、疲れやすいなどの症状が、精神的には落ち込みやすい、不安になりやすいなどの症状が現れます。
そして、これらの症状を放置しておくと、免疫力・内臓機能の低下、うつ病などにつながることもあります。
十分な睡眠を取り、疲れを蓄積しないということは、健康を維持するためには欠かせない生活習慣なのです。
しかし、一方で、睡眠薬に対する「習慣性」が心配になってしまうという方もいます。
「それがないと不安になる」「どうしてもそれが必要で我慢ができない」状態のことを、「依存」といいます。近年では「使用障害」と呼ばれることもあります。
特に薬物(鎮痛剤、睡眠薬、麻薬など)、アルコール、ギャンブルなど、快楽、快感につながるものは、依存が起きやすいものなのです。
依存には「身体依存」と「精神依存」の二種類があります。現在主流となっている睡眠薬は、主に身体依存が問題となります。
睡眠薬の身体依存とは
身体依存とは
もともと体は依存性薬物を摂取した状態では呼吸や脈拍などの機能に影響を受けます。
ところが身体依存の状態になると、薬物を摂取した状態が普通の状態であると身体がみなすようになり、その薬物が体内にあっても身体が正常に機能するようになります。
そして逆に、薬物が切れると離脱症状と呼ばれる症状が現れるようになります。
身体依存とは、薬の作用によって、薬の服用を止めようとすると何かしらの症状が生じてしまう状態です。そのために、薬の摂取を止めること自体が難しくなってしまいます。
その症状(離脱症状)は多岐に及び、例えば、以下のような症状が現れます。
- イライラ
- 不安
- 吐き気
- めまい
- 心拍の上昇など
それでは、もう1つの依存、「精神依存」とはどのようなものなのでしょうか?
睡眠薬の精神依存とは
睡眠薬の服用が常態化することで、精神的に睡眠薬がなければ眠れない状態に陥るという場合があります。これは、薬の直接的な作用とは異なり、「精神依存」と呼ばれる症状です。
特に、寝つきを良くし、入眠しやすくする、「超短時間型」や「短時間型」と呼ばれる睡眠薬を服用している人に起こりやすい症状です。
精神依存は、服用から2~3か月程度で起きると言われています。しかし、依存の状態としては軽度なものです。
服用の目安は6~8か月
最近の睡眠薬は、以前に比べて依存性は小さくなっています。
しかし、医師の指導に従って服用していても、身体依存になる可能性はあります。これを「常用量依存(臨床用量依存)」と呼びます。
この常用量依存は、「服用期間」が最大の要因となります。
どのくらいの期間で依存が生じてしまうのか、3週間程度で依存が形成されてしまうという症例もあるようですが、おおよそ8か月間の使用で依存が形成されている可能性が高いと言われています。
また別の研究報告では、「臨床用量を、著しい増量なしに6か月以上の継続服用」と条件付けした研究が行われています。
これらのことから、身体依存が主として生じるのは、服用から6~8か月と考えられます。
したがって、服用を短期間に抑えれば、過度に依存の心配をしなくても良いと言えるでしょう。
ただし、これは医師から処方される睡眠薬が対象です。市販の睡眠薬は、処方薬よりも依存性が生じやすいという特徴があります。
一過性の不眠で、たまに使用するなら問題はありません。しかし、睡眠の問題が常態化しているのなら、市販の睡眠薬を利用することは危険だと認識しましょう。
生活習慣の見直しから
睡眠の障害(不眠)によって起こる心身への悪影響を考えると、睡眠薬の服用はやはり有効な手段です。
依存が生じるか否かは個人差が大きいので、必ず発現するというわけではありません。しかし、服用が長期化すると、依存の可能性が出てくるのも確かです。
服用を短期で抑えるためには、「自然に眠れる心身の状態」を作ることが大切です。その際に有効な方法として、次の2つが挙げられます。
- ストレスが原因の場合 => 問題解決と解消
- ストレスおよび、その他の病気以外が原因の場合 => 生活習慣の見直し
前者は、「考え方の見直し」「ストレス解消法の拡充」など、時間がかかります。
一方、後者は、今日からすぐにでも始めることができます。見直すべきポイントは以下の4点です。
1.朝日を浴びること
睡眠に問題を抱えている人は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが欠乏している場合が少なくありません。
このセロトニンは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれます。不足すると、不眠やうつ症状などに陥ります。
セロトニンは、毎朝一定量以上の光を目から取り入れることによって、生成されやすくなります。これは、1日の生体リズムを調整する体内時計が整えられることによります。生体リズムとは、活動と休息のリズムのことです。
私たちの体は日が昇れば活動的になり、沈めば休息するようにプログラムされています。しかし生体リズムは1日24時間で動く地球の周期とは若干ズレがあります。このため、起床時に太陽の光を浴びてリセットすることが大切なのです。
2.適度な運動を習慣にすること
睡眠に障害が現れる原因の一つが、脳の疲労と身体の疲労の差です。特に荷の重い仕事、人間関係の問題といった、ストレスを抱えている人に多くみられます。
ストレスは、脳を活性化させたり、大脳が熱を帯びたりと、脳に大きな疲労を与えます。このため、精神的にはとても疲れてしまいます。一方、ストレスの影響で身体の動きは鈍くなっていますので、運動量は減ります。このアンバランスな状態が、「眠れない」という状態を引き起こしのです。
また、運動することで、先ほど説明したセロトニンが活性化されるというメリットもあります。
ランニング・ウォーキング・水泳などの運動は、適度に肉体を疲労させる他、単純な繰り返し運動はセロトニンの活性化に特に適しています。激しい運動や難しい動きは、セロトニンの活性化には効果がありません。
週3回、30分程度の運動を生活習慣に取り入れると、週1回、1時間半、仕事を減らすよりも睡眠の質を改善する効果があると分かっています。
3.眠る前に刺激を受けないようにすること
- 大きな音
- スマホ・PC・テレビなどの画面の光
- 激しい運動
- 食べ過ぎ
- 飲み過ぎ
- 熱いお湯での入浴など
身体への刺激は、心身の休息を促すための「副交感神経」の働きを妨げます。副交感神経が上手く働けなければ、いつまで経っても眠気はやってきません。
むしろ、心身を活性化させる「交感神経」が活性化し、目が冴えてしまうので注意が必要です。
これらの刺激を伴う行為は、就寝の1時間前までに済ませることが大切です。
4.リラックスタイムを設けよう
眠る前には、副交感神経が正常に働けるように、リラックスタイムを設けると良いでしょう。特に、就寝前1時間程度を「心を落ち着ける時間」とすると睡眠に入りやすくなります。
例えば、下記のような方法があります。
- 38~40℃のぬるめのお湯でゆっくりと入浴する
- アロマをたいて芳香浴
- リラクゼーション音楽を聴く
- 軽いヨガやストレッチをするなど
さいごに
私たちの体のリズムは、自律神経と総称される「交感神経」と「副交感神経」の働きによってオンとオフを自動で切り替えています。
睡眠に障害が起きる原因は、自律神経のバランスの乱れが一因です。ですから、生活習慣を見直し、自律神経のバランスを整えることは、自然な眠りを促すために効果が高い方法なのです。
また、自律神経はストレスによってもバランスを崩します。ストレスが原因であれば、ストレスの原因を解決、負担の解消をすることが大切なのは言うまでもありません。
以上から、睡眠薬の服用を短期間に抑えるには、生活習慣の見直しや、ストレスの問題への対処が効果的です。
ただし、症状によっては長期服用が望ましい場合もあります。「医師としっかり話す、状態・要望を伝えること」を心がけましょう。