体内時計と睡眠 – 概日リズムとは
人間には、生体リズムと呼ばれる、身体のリズムを整えるための体内時計が備わっています。
生体リズムは、月経周期を司ったり、心拍や呼吸のリズム・睡眠のリズムを整えるなど、様々な役割を担っています。このため、生体リズムには、1分単位で刻まれるものから1年単位で刻まれるものまで、様々なリズムが存在しています。
中でも、1日24時間の周期のことを、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼んでいます。これらの体内時計が作り出される中枢は、脳の視床下部にある、視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる場所に存在しています。
視交叉上核
体内時計の中核となる神経細胞。脳の奥にある視床下部に存在している。
24時間周期とフリーラン
地球の周期は、朝に日が昇り夜に日が沈むまでの1日を24時間として正確に繰り返しています。私たちもまた、毎日夜になったら眠り朝になったら起きる、という地球のリズムと同じ生活を正確に繰り返し続けています。
ですから、体内時計も、地球のリズムと同様に24時間を正確に刻んでいるのかと思ってしまいそうです。ですが、最初にも書いたように、私たちの体内リズムは現実には24時間ではありません。人間の体内時計は、24時間を若干超え、25時間前後を1日の周期としている事が分かっています。
この、人間が持つ体内時計の事を、フリーランと呼びます。
人間が持つ1日の体内時計の周期。
24時間よりも長く、25時間程度を1日の周期としている。
1日を25時間として日々の生活を送っていると、徐々に地球の朝晩のリズムとはズレていきます。単純に計算すると、下の図のように1日1時間ずつズレていくと、10日で10時間のズレとなります。
でも実際には、私たちは地球のリズムに合わせて生活しています。なぜ、人間の体内時計はフリーランのとおり、1日約25時間の周期で固定されていないのでしょうか?
実は、人間が1日のリズムを24時間に保ったまま、不規則な生活にならずに済んでいるのには理由があるのです。
人間が24時間の周期を維持できる理由
人間がフリーランに影響されず、1日24時間のリズムを毎日維持できるのは、同調因子が存在しているおかげです。
人間の体内時計である約25時間のフリーランを、地球の1日の周期である24時間の周期に同調(合わせてくれる)因子。
具体的にどのような要因が人間の体内時計を24時間へと同調させてくれるのでしょうか?
考えられる同調因子の一部を、以下に書き出してみました。
- 太陽の光
- 時計やテレビなど、時刻の分かる物
- 食事の習慣
- 運動の習慣
- 規則的な社会生活
つまり、社会での規則的な生活や外界の環境は、人が24時間のリズムをつかむために役立つものなのです。
太陽の光が体内時計をリセットする
上記の中でも、太陽の光は体内時計を24時間に同調させるための一番重要な要因となります。例えば、冬季の日照時間が極端に短い国では、不眠症などの睡眠障害やうつ病を発症する確率が高まるとされています。
自然界に存在する太陽の光は、生物の進化と共存してきました。人間もまた、太陽が作り出す昼と夜の環境に合わせて進化を遂げてきました。
下記の図のように、午前中の早い時間に目から入った太陽の光は、目の奥にある網膜を通し、体内時計の中枢である視交叉上核に刺激を伝達します。この時、視交叉上核の体内時計が、フリーランのズレを修正し、24時間のリズムへと同調されるのです。
体内時計が乱れるとどうなる?
しかし、夜型の生活やシフト勤務など、どうしても24時間のリズムを維持することができない場合もあります。日中に充分な太陽光を浴びることができなかったり、不規則な生活を送っている場合は尚更です。
このような場合には、フリーランを24時間の周期に同調させる事が難しくなってしまいます。
自然界の24時間のリズムに合わせて体内時計を刻む事ができなければ、私たちの身体にはどのような変化が起こるのでしょうか?
体内時計が影響を与える生体リズムの機能には、大きく分けると2つあります。
1.深部体温とメラトニンの変化
1つめは、体温のリズムやメラトニンの分泌です。
私たちの身体は、睡眠時間が近づくにつれて徐々に体温が低下していきます。正確には、深部体温と呼ばれる身体の内部の温度が低下することで、睡眠に必要なホルモンである「メラトニン(睡眠物質)」が分泌され、主観的な眠気が増大します。このメラトニンの分泌は、睡眠を安定させる効果があります。
2.睡眠と覚醒のリズム
2つめは、睡眠と覚醒のリズムです。
これには、太陽の光だけでなく、社会的な因子(時計や社会生活など)も大きく影響しています。
昼間にしっかりと光を浴び、体内時計を24時間のリズムに同調させることによって、体内時計のリズムがしっかりと作られ、昼と夜のメリハリがはっきり作られるようになります。
先ほどの深部体温とメラトニンも相互に作用する事によって、日中の脳の覚醒をより活性化させ、夜間の睡眠を安定させてくれるのです。
体内時計の変化は「気分」も左右する
ここまで読んで頂いたとおり、体内時計の変化は、睡眠だけでなく日中の気分にも多大な影響を与えています。
昼間の体内時計がしっかり機能していないと、日中に深部体温が上がらず、脳の代謝を低下させてしまいます。これによって、陰性(暗い気持ち・うつ状態)の気分が誘発されてしまいます。
体内時計を狂わせる理由
当然ながら、体内時計が乱れる原因は、同調因子をしっかりと取れていない場合に発生しやすくなります。
上の方にも書いていますが、
- 足に太陽の光を浴びる事ができない状況
- 不規則な生活習慣
- 運動不足
また、これら以外にも体内時計を狂わせる大きな要因となるのが、
- 夜間に強い光を浴びる
- 夜間に青色波長の光を浴びる
特に、青色波長を持った光は、光自体が弱くても、太陽の光と同様で視交叉上核に刺激を与えます。体内時計の時刻調整作用に影響を与え、正確な体内時計のリズムを破壊してしまいます。
青色波長の光というのは、
- 蛍光灯
- LED
- テレビ
- パソコン
- スマートフォン
本来は、夜間に体温を低下させメラトニンの分泌と共に深い眠りにつくはずが、青色波長の光の影響を受けることで脳が覚醒し、メラトニンの分泌や夜間の深部低温の低下も妨げてしまうのです。
健全な睡眠を得るためには、少なくとも就寝前の3時間程度は、こうした光を浴びる事を避けるようにしましょう。
青色波長の光や強い光は脳を覚醒させるので、朝の時間帯や日中に浴びると、眠気を覚まし脳の覚醒を促すことができますよ。