不眠症の治療 – 自分でできることと病院での治療

夜になると眠れない

布団に入っても全然眠れない。夜中に何度も目が覚める。
こんな症状が続くと、身体はだるいし、気持ちも晴れません。仕事や家事にも影響が出てしまうでしょう。

しかし、「病院に行くほどでもないだろう」と自己判断をして、不眠を悪化させてしまうことは避けたいものです。不眠が悪化すると、うつ病などの心の病につながる可能性もありますから、症状が長引いたり、ひどいようなら、迷わずに病院に行きましょう。

不眠症かどうかの判断基準

病院に行かなくてもよいのか、行った方がよいのか、ご自分では中々判断が難しいものですね。
そこで、まずは、以下のチェックを行ってみて下さい。

右のいずれかの症状があるか? 入眠困難(寝つきが悪い)
中途覚醒(夜中に目が覚める)
早朝覚醒(早朝に目が覚める)
慢性的に睡眠の質が悪い
1.の症状が、適切な睡眠習慣、睡眠環境でもよく起こるか?
夜眠れないことで、日中、右のような症状があるか? 疲労感や不快感がある
注意力や集中⼒、記憶力が下がる
日中眠い
仕事や勉強のパフォーマンスが下がる
イライラする
行動力、やる気、積極性がない
仕事やテストでミスしやすい
頭痛や胃のむかつき、消化不良などがある
睡眠への不安や悩みがある

参考:厚生労働省・日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」PDF

以上の1~3に当てはまる場合、あなたは不眠症ですから、病院に行った方が良いでしょう。
当てはまらないという方は、不眠症予備軍だと考えられます。しかし、予備軍だからと言って、そのまま放置していると、不眠症になってしまうかもしれません。

そこで、不眠症の治療法についてご紹介したいと思います。病院での治療を前提に話を進めますが、中にはご自分でできることもあります。病院に行くのがためらわれる方は、一度、ご自分でできる方法を試してみると、多少の改善が見込めるかもしれませんよ。

不眠症を治療する際の流れ

はじめに、病院での不眠症治療の流れを、分かりやすく模式化してみました。

不眠症の治療アルゴリズム

不眠症の治療アルゴリズム(模式図)

参考:厚生労働省・日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使⽤用と休薬のための診療療ガイドライン」PDF

この治療の流れは、2013年に初めて作られたもので、まだまだ浸透していないのが実情です。
ですから、病院に行く場合は、なるべくなら睡眠専門の医師の診察を受けるのが良いでしょう。

睡眠を専門とした医師の探し方は、以下の記事からご覧ください。

自分でもできる「睡眠衛生指導」

ランニング

上記の図中で、はじめに行われる睡眠衛生指導は、ご自分でもできることがほとんどです。

睡眠衛生指導にLet’sチャレンジ!

睡眠衛生指導とは、「睡眠について正しい知識を持ち、快適な睡眠を得るために必要な生活改善を指導する」というものです。

具体的には、以下の4つの改善について学び、実践します。

  • 生活習慣
  • 睡眠習慣
  • 睡眠環境
  • 食生活

【生活習慣の改善】
生活習慣の改善では、普段行っている睡眠に悪い行いを止めて、睡眠に良い行いを行います。例えば、長時間の昼寝や、寝る前の食事やスマホは止め、朝起きたら太陽の光を浴びて、日中は活動的に動くようにします。

【睡眠習慣の改善】
睡眠習慣の改善では、よくありがちな睡眠習慣である、眠くないのに布団に入ることや、休日ダラダラと布団の中で過ごすことを止めます。

【睡眠環境の改善】
睡眠環境の改善では、寝室の温度や湿度に配慮し、眠りを妨げる音や光を防ぐようにします。

【食生活の改善】
食生活の改善では、栄養バランスの取れた食事をとるように心がけ、睡眠ホルモン「メラトニン」の材料となる「トリプトファン」を積極的に摂取するようにします。

いかがでしょうか。ご自分でもできそうだとは思いませんか?

睡眠衛生指導の詳しい内容については、自分でできる不眠症の治し方として、以下の記事で詳しく説明しています。ぜひ一度お試しください。

病院で行われる「薬物療法」と「認知行動療法」

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睡眠衛生指導では効果が見られなかった場合や、症状がひどい場合に行われるのが、薬物療法です。
そして、薬物療法で効果が見られなかったり、効果が弱い場合には、認知行動療法が行われます。ただし、薬物療法の前や、薬物療法と並行して行っても有効ですから、どの段階で行うかは医師の判断によります。

薬物療法~減薬・休薬(断薬)まで

薬物療法では、睡眠障害のタイプによって、使用する睡眠薬の種類が決定されます。

入眠障害
(寝つきが悪い)
睡眠導入剤
(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体拮抗薬)
中途覚醒
(夜中に目が覚める)
早朝覚醒
(早朝に目が覚める)
睡眠薬
(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)
概日リズム睡眠障害
(生体リズムの乱れが原因の不眠)
メラトニン受容体作動薬

入眠障害では、効果が早く現れ、効果の持続時間が短い睡眠導入剤が用いられます。また、中途覚醒や早朝覚醒では、効果の持続時間が長い睡眠薬が用いられます。また、概日リズム睡眠障害に対しては、比較的新しいメラトニン受容体作動薬という睡眠導入剤が選択されます。

また、睡眠障害の種類によっては、複数の睡眠薬が処方されることもあります。しかし、3種類以上の睡眠薬は処方してはいけないことになっていますから、多くても3種類までです。

とは言え、3種類も睡眠薬を処方されたら、不安に思うかもしれません。処方された睡眠薬について心配なことがあれば、遠慮せずに、担当の医師や薬剤師に尋ねるようにしましょう。

減薬・休薬(断薬)を確実に成功させるには

薬を心配する女性

現在、主流のベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、依存性が高く、なるべく早期に減薬・休薬(断薬)する必要があります。しかし、その方法は、適切なタイミングで、適切な方法で行われないと、重大な副作用を招きかねません

減薬は、以下の2つがそろったタイミングで行うのが成功のポイントです。

  • 夜間の不眠症状が改善している
  • 不眠症状が改善したため、日中の調子が良い
また、急激な減薬による離脱症状を避けるために、少しずつ減らしていくことが大切です。

※離脱症状とは、長期間あるいは多量の睡眠薬を急に止めようとした時に現れる症状のこと。不眠や、けいれん発作、不安感、幻覚・幻聴、吐き気などが起こることがある。

そのために、以下のような方法で、徐々に減薬を行うのが成功のポイントです。

減薬を始める日 睡眠薬を1/4錠減らす(3/4錠を服用する)
1~2週間後 さらに1/4錠減らす(2/4錠を服用する)
さらに1~2週間後 さらに1/4錠減らす(1/4錠を服用する)

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特に、複数の睡眠薬が処方されている場合、減薬する睡眠薬の順番は大切です。必ず、担当の医師と相談しながら、減薬を行いましょう。

また、減薬すると、一時的に不眠の症状がぶり返すことがあります。大抵は数日で治まりますが、もし不眠が続くようなら、減薬の時期が早かった可能性があります。その場合は、担当の医師に相談してください。

不眠のカウンセリング「認知行動療法」

認知行動療法では、「不眠を招くような生活習慣や考え方について、カウンセリングを通して見直す」ことで不眠を改善します。

カウンセリングでは、睡眠衛生指導の項でご紹介したような内容を体系的に学びます。また、睡眠についての考えが誤っている場合は正しい考えを学び、それを実践します。
睡眠に関する正しい知識は、厚生労働省が作成した「健康づくりのための睡眠指針 2014 (PDF)」でも学ぶことができます。

では、認知行動療法の具体的な方法として、以下の3つをご紹介しましょう。

  • 睡眠日誌
  • 刺激コントロール療法
  • 睡眠時間制限療法
睡眠日誌

睡眠衛生教育

睡眠日誌をつけることで、ご自分の睡眠の状態や状況が客観的に把握でき、どんな行動やどんな状況が不眠を招いているかが分かります。

睡眠日誌には、ご自分の睡眠の時間や、その日の行動や状況などを記録します。

睡眠(昼寝も含む)の時間

  • 布団に入った時刻
  • 寝入った時刻
  • 起きた時刻
  • 布団から出た時刻

その日の行動や状況

  • 食事の時間
  • 運動量や時間
  • ストレスに感じたこと
  • 飲酒やカフェインを摂取した量や時間
  • 服用した薬(サプリも含む)や服用した時間など
はじめは面倒かもしれませんが、睡眠日誌は、毎日、最低でも2週間はつけましょう。こうして不眠を招く行動や状況が分かれば、それを意識して気をつけることで、不眠が自然に改善に向かうでしょう。

刺激コントロール療法

不眠の改善

1980年代にアメリカで提唱された刺激コントロール療法は、たった6つのことを守ることで、睡眠に悪影響を与える刺激をコントロールするというものです。

6つの守ること

  1. 眠くなるまで布団に入らない(眠くなってから入る)
  2. 布団に入るのは、睡眠と性行為の時だけにする
  3. 布団に入ったのに眠れない時は、一旦起き上がる(布団から出る)
  4. 上記を、眠れるまで繰り返す
  5. 起きる時間を一定にする(休日も)
  6. 昼寝はしない
眠くないのに布団に入っても、気持ちが焦るだけでかえって眠れなくなることがあります。布団は眠りと性行為のためだけに使用するようにし、15分以上眠れないなら、一旦布団から起き上がりましょう。そして、自分に合ったリラックス法を実践しましょう。

また、寝る時間に関わらず、起きる時間を一定にすることが、睡眠と覚醒のリズムを整えるのに大切です。休日も平日と同じ時間に起き、起きたら太陽の光を浴びるようにしましょう。また、昼寝をすると夜眠れなくなるのは当たり前のことです。休息のための昼寝なら、30分以内に留めましょう。

この刺激コントロール療法と、睡眠日誌の記録を並行して行うと、不眠症の改善度が格段にアップすると言われています。まずは、ご自分でできることから始めてみてはいかがでしょうか。

睡眠時間制限療法

寝溜め

睡眠時間制限療法は、実際に眠っている時間だけ布団に入るようにし、布団の中にいる時間のほとんどを眠る時間に当てるようにする方法です。

睡眠時間制限療法の進め方

睡眠時間制限療法

上記を繰り返すことで、徐々に睡眠時間が長くなることが証明されています。睡眠時間制限療法は、時間の算出など少し難しいかもしれませんので、ご自分で無理をせず、カウンセラーの力を借りて行いましょう。

認知行動療法には、他にも筋弛緩療法という、末端の筋肉を弛緩させて緊張をほぐす方法があります。筋弛緩療法にはリラックス効果があり、不眠症の解消に役立ちます。

治療

これらの方法を組み合わせて行われるのが認知行動療法で、大体4~8回くらいのカウンセリングで、ある程度の改善が見込めます。睡眠薬のように即効性はありませんが、不眠に関する知識が増え、自分で解決に導けるようになることがメリットです。
また、認知行動療法は、うつ病のような心の病や、慢性的な痛みを伴うような不眠においても、有効であることも分かっています。

認知行動療法は、アメリカでは不眠症の標準的な治療法に位置付けられています。しかし、日本ではまだ認知行動療法が行える病院は少なく、しかも保険適応外のため料金がかかるのが難点です。

認知行動療法は、この療法に習熟した医師が行う必要があります。睡眠の専門医がいても、認知行動療法が行えるかどうかは分かりません。
不眠症の治療は、内科や心療内科・精神科などでも行っているところがありますが、薬物療法だけに終始しないように、病院を探す際には、事前に確認するようにすると良いでしょう。

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