概日リズム睡眠障害 – 睡眠と起床のリズムがずれていく
概日リズムとは、1日=24時間を1つの周期として、体内で刻まれているリズム(生体リズム)のことです。
本来、人間の体内時計は、25時間を1日の周期として刻んでいます。
しかし、太陽の光や時計の存在、24時間を軸とした社会生活など、1日を24時間と認識するための様々な同調因子の存在により、25時間の体内時計を24時間に同調させています。
人間は、様々な同調因子によって、本来25時間の概日リズム(生体リズム)を、24時間に合わせている。
「概日リズム睡眠障害」は、24時間のリズムがなんらかの理由でズレてしまい、私たちの生活時間と同調しなくなってしまっている状態のことを言います。
学生や社会人の方の場合、当然ながら朝の早い時間に起床し、夜の遅い時間に眠るという生活を送らなければいけません。そうしなければ、社会生活に支障をきたしてしまうからです。
また、夜型の生活や深夜勤務などで概日リズムが昼と夜とで逆転してしまっている場合も、一般的な社会生活のリズムを送ることはかなり困難です。
このような概日リズム睡眠障害の症状は、近年、中学生や高校生などの若い方にも多く見られるようになっています。概日リズム睡眠障害の原因や対策など、詳細を以下にまとめてみます。
概日リズム睡眠障害とは
概日リズム睡眠障害は、睡眠と覚醒のリズムが大きくズレてしまう睡眠障害と考えると分かりやすいでしょう。単に「寝不足が続く」「睡眠時間が短くなる」と言った不眠症の症状とは、性質が異なります。
具体的には、夜は全く眠くならないのに、明け方になると決まってぐっすりと眠れるというような状態です。「昼夜逆転」という言葉は、まさにこれに当てはまりますね。
概日リズム睡眠障害は、睡眠相が後ろにズレているか、前にズレているかで、2つのタイプに分けられます。
睡眠相後退型の場合
概日リズム睡眠障害のうち、睡眠時間が後ろに後退していく状態を睡眠相後退型と言います。睡眠障害や不眠症のイメージと言えば、この昼夜逆転型が一般的でしょう。
睡眠相前進型の場合
同じ概日リズム障害でも、睡眠時間が後ろではなく前にズレていく場合もあります。これを睡眠相前進型と呼びます。
睡眠相後退型とは異なり、一般的な社会生活を送っている方に比べて早寝早起きになるため、一見して健康的な生活に見えます。
睡眠相後退型と睡眠相前進型の違い
睡眠相後退型・睡眠相前進型で概日リズム睡眠障害を比べてみると、同じ概日リズム睡眠障害とは言え、社会的には全く異なる反応を受けることとなります。
一般的な社会生活という観念で考えると、睡眠相後退型の症状は大きな問題を引き起こします。特に学生や社会人の方の場合、眠りにつく時間が深夜や明け方近くになり、その結果起床時間が遅くなってしまい、だらしがないと思われるのが普通です。普段の生活にも支障をきたします。
一方、睡眠相前進型の場合は、早寝早起きになるため、規則正しいとして褒められることがあるかもしれません。
概日リズム睡眠障害に悩む方でも、特に社会生活に問題が出ない場合は、あまり問題視する必要はないこともあります。夜型の生活でも、健康に害を与えず、職業上(社会生活上)問題が無ければ、それはそれで過剰に問題視する必要はないというのが私個人の考えでもあります。
この考え方は、他の睡眠障害にも当てはまります。睡眠時間が極端に短い場合でも、日中の生活に支障がなければ特に問題視する必要はないでしょう。
繰り返しとなりますが、問題は、その事によって、健康面や仕事、社会生活に悪影響を与えていないかどうかという点なのです。
概日リズム睡眠障害を見分けるには
概日リズム睡眠障害と、そうではない不眠症を見分けるには、以下のいずれかに当てはまるかどうかをチェックすると良いでしょう。
いずれか1つでも当てはまるようであれば、概日リズム睡眠障害の可能性があります。
- 望ましい時間に起きることができず、望ましい時間に眠ることができない。
- 起床時間と就寝時刻が後退している。(※明け方に寝て昼頃に起きる。)
- 睡眠の持続時間は正常で、問題は睡眠の時間帯にあると思われる。
- 社会生活のスケジュールが自由に変えられれば、大きな問題とはならない。
概日リズム睡眠障害は、生活の習慣によって固定化されてしまうことがあります。
例えば、10代の頃に長期間に渡って夜型の生活をしていた方の場合、その後、朝型の生活に戻すことが困難な場合があります。
概日リズム睡眠障害の症状
身体のだるさ・体調不良を引き起こす
概日リズム睡眠障害が引き起こす問題は、睡眠の時間の問題だけではありません。
体内時計が司っているのは睡眠のリズムだけでなく、体温や脳の覚醒など様々な身体機能に及ぶからです。
睡眠相後退型の症状の場合、無理に朝の時間に起きようとすると、激しい身体のだるさを伴うことがあります。
概日リズムが夜の時間になっていると、脳は睡眠に適した身体の状態を保とうとします。日中の時間帯も、体温は下がったままで脳は覚醒しきれません。こうした状態にも関わらず無理に起きて活動をしようとすると、身体がだるく感じたり、頭がすっきりしない感覚に襲われてしまうのです。
過剰な気分のだるさの原因
身体のだるさや気分のだるさの原因の一つとして、精神的な理由も考えられます。
特に、小さい頃から「朝は起きなければいけない」「朝起きなければだらしがない」と教えられてきた人ほど、朝の時間に起きられない自分を過剰に責めてしまう傾向にあります。
このように考えてしまうと、強い自責の感覚に襲われ、精神的にも身体的にも過剰なだるさを引き起こす原因につながるのです。
上述したように、特に普段の生活に支障がないのであれば、無理に朝の時間帯に起きる必要はないと気楽に考えてみてはどうでしょう。
睡眠相後退型の原因と治療法
概日リズム睡眠障害は、はっきりとした原因が分かっているわけではありません。
体内時計を司っている、時計遺伝子と呼ばれる遺伝子の影響も考えられていますが、その他にも精神的な要因など、様々な事象が関係しているとされています。
夜更かしや起床時間の後退を容認する
前述したように、社会生活や健康に悪影響を与えなければ、概日リズム睡眠障害を問題と考えるかどうかは当人次第です。
ですから、思い切って夜更かしや起床時間の後退を受け入れるという方法も治療の選択肢の一つとして考えてみても良いかもしれません。
高照度光療法で概日リズムを矯正する
概日リズム睡眠障害の治療法の一つに、高照度光療法と呼ばれる治療法があります。
下の図のように、目から入った光の刺激は、視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる神経を刺激し、睡眠と覚醒のリズムを変化させます。
睡眠相後退型は睡眠と覚醒のリズムが後ろにズレている状態ですが、朝の早い時間帯に強い光を浴びることで、正常なリズムに矯正することができると言われています。
この治療に用いられる光は、通常の電球とは異なり、比較的光の照度が強い光療法器(高照度光療法器)を使用します。
通常、太陽光からは32,000~100,000ルクス程の明るさを受けることができますが、光療法器は、太陽光の約10分の1の3,000~10,000ルクス程度の明るさを発します。
高照度光療法については、以下の記事で詳しく説明しています。
薬物療法で睡眠時間を矯正する
概日リズム睡眠障害の他の治療法としては、超短時間型の睡眠薬を服用することによって睡眠と覚醒のリズムのズレを修正するという方法もあります。
睡眠薬にはいくつかの種類がありますが、超短時間作用型の睡眠薬は、服用後2~3時間程度しか効果が持続しません。
そのため、主に寝つきを良くするために使用されますが、意図した時間に入眠時間を固定するために処方されることもあります。超短時間作用型の睡眠薬を服用することで、一般的な睡眠時間に睡眠を固定させるようにするのです。
しかし、超短時間型睡眠薬はあくまで入眠時間を正常に戻すために使用するもので、長期間連用により依存症・離脱症状を助長する結果になりかねませんので、おすすめはできません。
さまざまな睡眠薬の特徴については、下記の記事にまとめています。
もし、概日リズム睡眠障害の疑いがあるようなら、自分一人で悩まずに、早めに医師の診察を受けましょう。