ストレスによる不眠を解決するには?
不眠の原因の一つにストレスがあります。ストレス性の不眠の多くは一過性のもので、問題がすべて解決しなくても2~3日で正常な睡眠を取り戻すことができます。
しかしストレスによる負担が強すぎたり長期間継続すると、長期不眠、慢性不眠になる場合があります。これは、ストレスによって自律神経のバランスが崩れたり、生活習慣が乱れることによって概日リズムが乱れるためです。
不眠を解消するためには、ストレスへの積極的な対処が必要です。
ストレスと不眠の関係
ストレスを感じると、脳は「命を守るための機能」を強化する指令を出します。この指令によって、体のあらゆる器官はストレスに抵抗するための臨戦態勢を取ります。
強いストレスや継続するストレスにさらされると、心身は警戒態勢に入り、常時緊張している状態になるのです。
さらに心身の緊張状態が長く続くと、体に組み込まれているいろいろな調整システムがバランスを崩します。その一つが自律神経です。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」から成り、主に活動と休息のバランスを取ります。
緊張している時に優位に立つのが活動を司る「交感神経」です。交感神経が優位に立った結果、休息を促す「副交感神経」の働きが抑制されると、最大の休息活動である「睡眠」を十分に得ることができなくなります。
精神科、心療内科に相談する
1か月以上の不眠やそれに伴う心身の不快症状(イライラ、集中力の低下、体のだるさなど)は、できるだけ早く解決する必要があります。
そのために最適なのは医師による薬理療法です。
睡眠に関わる諸症状の専門は、精神科・心療内科です。内科で睡眠導入剤(睡眠薬)だけ処方してもらうこともできます。
しかしストレスが原因と分かっているなら、状況に合った薬を専門医に処方してもらうほうが早く解決できます。
こうして、睡眠薬を使えば眠ることはできます。しかし、薬によって強制的に眠らされているだけなので、睡眠問題の本質は改善されません。
睡眠問題を根本から解決するには、ストレスへの適切な対処法を身につけることが必要です。
市販の睡眠改善薬、漢方、サプリメントを利用する
ストレスを感じると時々寝つきが悪くなったり眠りが浅くなるが、継続したとしても1週間程度の不眠や寝不足なら、市販の薬で効果が得られる場合があります。
睡眠改善薬
市販の睡眠薬は、「たまに眠れない、眠りが浅い、継続しても1週間程度の一過性の不眠」が対象です。
継続服用や慢性的な不眠症状には適していないことを理解した上で服用しましょう。
ドリエル(エスエス製薬)
OTC薬(薬局、薬店で購入できる薬)として、日本では初めて不眠に対する効能を認められた薬です。
適応は「精神疾患等病的な原因のない人が経験する一過性の不眠」です。
画像:エスエス製薬「ドリエル」
2~3回服用しても効果が得られない場合は、医療機関を受診するよう注意書きされています。
漢方
漢方薬は生薬(しょうやく)を組み合わせたものです。生薬とは、天然由来の植物や動物、鉱物を有効成分の精製をせずに用いる薬です。
このため、それぞれの生薬が多くの有効成分を含んでおり、1つの処方でも様々な作用を持っています。
①加味帰脾湯(かみきひとう)
ストレスによるうつ症状に用いられる「帰脾湯(きひとう)」に、イライラやのぼせを軽減する「柴胡(さいこ)」「山梔子(さんしし)」を加えた処方です。
不安や緊張、苛立ちを鎮め、不眠や神経症に効果的とされています。
②柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
抗ストレス作用の高い「柴胡」に、気持ちを落ち着かせる「竜骨(りゅうこつ)」と「牡蛎(ぼれい)」を加えた処方です。
精神が不安定で、動悸や不眠、イライラといった症状がある場合に効果があります。
サプリメント
サプリメントは、効果や効能をうたうことはできません。カテゴリーとしては「栄養補助食品」です。サプリメントの役割は、「普段の食事の中で足りないものを補う」ことです。
サプリメントを飲んでいれば、それですべてまかなえるというものではありません。しかし、ストレスによって不足しがちな栄養素をサプリメントで補うことで、一定の効果を得ることはできます。上手に活用して、ストレスによる不眠や不快症状の緩和に役立てましょう。
①GABA
GABAはアミノ酸の一種です。脳内や脊髄、中枢神経に多く存在し、抑制の神経伝達物質として働いています。
体内で十分な量が作られるGABAですが、強いストレスにさらされると、それを緩和するため大量に使用されて不足しがちになります。
抑制性のギャバを摂取することで、不安やイライラを解消し、精神を和らげる精神安定効果があります。また就寝前の服用には、深部体温の低下を促し、入眠しやすくしたり、眠りを深くする効果があります。
②テアニン
テアニンは緑茶のうまみ成分です。お茶を飲むと気持ちが落ち着く人は多いと思います。これはテアニンの摂取によってα波(リラックス時の脳波)が増えるためです。こうして脳がリラックスすると筋肉の緊張がほぐれ、血流が良くなります。これは副交感神経が優位に働いている証しでもあります。
夜にテアニンのサプリメントを飲むことによって、ストレスによる緊張を緩和し、寝つきを良くし、睡眠の質を上げる効果に期待ができます。
③バレリアン(カノコ草)
バレリアン(カノコ草)の根は、自然の穏やかな催眠薬・鎮静薬として使用されているハーブです。またドイツやフランスでは、医療用ハーブとして使用されています。
不眠・精神不安の解消、鎮静、ストレス緩和、筋肉の緊張の緩和などの効果が認められています。
ストレスになっている問題を解決する
ストレス社会と言われる現代、私たちは常にストレスにさらされています。心理的ストレス、社会的ストレス、生物的・科学的ストレス、環境ストレス、、、このようにストレス要因は多彩です。
不眠状態にあるときはもちろん、自然に眠れている時にも積極的にストレスを解消して緊張を緩和することが、健康的な睡眠や精神の維持ためには重要です。
認知の歪み
ストレスの原因は「外」にあると思っていませんか?
確かにきっかけは「外」にあります。しかし同じ状況に直面しても笑ってやり過ごせる人、気にしない人、深く傷つく人と反応は様々です。これは物事の「受け取り方」に大きな違いがあるためです。
大きなストレスを感じやすい人には「極端な考え方の偏り」が見られます。
考え方の偏りは誰にでもあります。しかし極端になると自分で自分を苦しめることになります。
考え方の偏りは「認知の歪み」として分類されています。その中から3つご紹介しましょう。
①白黒思考
「全か無か(all or nothing)思考」とも呼ばれます。両極端な二つの選択肢しかなく、それ以外は認めないという考え方です。
この考え方は多くの場合、他者との軋轢(あつれき)を生みます。まずは3つ目の選択肢を探すこと、納得できなくても「そういう考え方もある」と受け入れることから始めましょう。
②心のフィルター
生きていれば良いこと、悪いこと、両方を経験します。しかし心のフィルターは良いことをすべて遮断し、悪いことばかりを思い出させます。
「いつもこうなる」と考えがちなら、立ち止まって上手くいった出来事を思い出してみましょう。一人で思い出すことが難しければ、家族や気の置けない友達、カウンセラーに手伝ってもらうと良いでしょう。
③否定(マイナス化)思考
心のフィルターは良い部分を遮断しますが、否定思考は良いことも、悪いことに置き換える考え方です。「良いことがあったから、次は悪いことが起きるに違いない」と不安を募らせる、「(進んでみんなの机を拭いている自分に対して)偽善者だ」と卑下するのも、この考え方の偏りが原因です。
自分自身で否定的な考え方に囚われて、悪い方向に進んでいることに気づくことが大切です。
考え方は感情に影響を与え、気持ち・気分として表れます。また考え方が偏ると、他者との関係を築く上で大きな障壁になります。
一度自分の考え方を見つめ直し、必要であれば改善に取り組みましょう。
認知の歪みについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
ストレスの解消
ストレスは溜めこまないことが大切です。特にすぐに解決できない問題は、一度自分から切り離すようにしましょう。
ウォーキング、ランニング、ヨガなどの運動、自律訓練法、趣味に集中するなどは、気分の転換にとても効果的です。
ただし、ゲーム、ショッピング、アルコール、食べ物は依存しやすいため、若干の注意が必要です。
ストレスへの適切な対処法(ストレスコーピング)をできるだけたくさん持ち、意識して毎日の生活に取り入れましょう。
ストレスコーピングについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
カウンセラーに相談する
小さな悩みは家族や友人に相談できても、悩みが大きくなるとどんどん人に話せなくなります。これは「相手を心配させてはいけない」と思うからです。しかし一人で抱え込んでしまうと、同じ考えが堂々巡りして苦しくなるばかりです。
これに対し、カウンセラーは安心して話せる第三者です。
カウンセラーは否定せずに話を聴き、問題への対処法を一緒に考えたり、生活・食習慣の見直し、自律訓練法、考え方の修正を身につけるための手助けをしてくれます。
最近は、精神科・心療内科でもカウンセリングルームを併設しているところが増えています。薬を服用しながら、カウンセラーと一緒に根本原因の解決を図りましょう。カウンセリングを受けることによって、不眠の早期改善、再発防止につながります。
カウンセラーへの相談について詳しくは以下の記事をご覧ください。
ストレスから不眠が生じることもあれば、不眠からストレスが生じることもあります。健康な眠りを得られる生活を心がけ、毎日のスケジュールにストレス解消の時間を組み込みむようにしましょう。