睡眠薬の種類 – 使う前に知っておきたい知識
ひと口に「睡眠薬」と言っても、実はとても多くの種類があります。
病院でもらう睡眠薬や睡眠導入剤、ドラッグストアなどで購入できる睡眠改善薬、他にも、漢方薬やサプリメントまであります。
これらは、それぞれ作用の強弱や効果が現れるまでの時間、持続する時間が異なります。また、服用する人によっても、症状によっても、効き方は異なります。
ここでは、それらの効果や副作用など、薬を使う前にぜひ知っておいていただきたい基本的な知識についてご紹介したいと思います。
睡眠薬にはどんな種類があるのか
一般的に「睡眠薬」と呼ばれている薬は、大まかに分けると以下のように分類されます。
睡眠薬 | 医師の処方せんが必要 |
睡眠導入剤 | 医師の処方せんが必要 睡眠薬の中でも、持続時間が短い薬 |
睡眠改善薬 | ドラッグストアなどで購入可能 医師の処方せんは不要 |
上の2つは、処方せん薬品と言って、医師の診断を受けた上で、医師の処方せんのもとに使用する薬です。
睡眠導入剤は、睡眠薬の中でも作用時間が短く、特に寝つきの悪さを改善するためのお薬と考えると良いでしょう。
一番下の睡眠改善薬は、OTC医薬品と言って、ドラッグストアや薬局で購入することができる薬です。これは、睡眠薬や睡眠導入剤とは作用機序(作用メカニズム)や期待できる効果が違っていて、厳密に言うと「睡眠薬」ではありません。
また、この3つ以外にも、睡眠に良いとされる漢方薬やサプリメントもあります。
1.睡眠薬 – 処方せんが必要な薬
まず、厳密な意味での睡眠薬(睡眠薬と睡眠導入剤)についてご説明します。
睡眠薬とは、不眠症など日常的な睡眠障害に対して使用される薬のことです。上記のとおり、医師の処方せんがないと購入することができません。
1.1 睡眠薬の効果と副作用
現在処方されている一般的な睡眠薬は、脳の中枢神経に作用する薬が主流です。これは、穏やかに眠りを促す作用(鎮静催眠作用)と、不安を和らげて心を落ち着かせる作用(抗不安作用)によって睡眠を促します。
不眠など、睡眠障害の症状に対して、最も即効性が高く効果が強い薬だと言えるでしょう。
しかし、その分、副作用の危険性は増えますから、使用に際しては注意が必要です。
一般的な睡眠薬の副作用としては、以下のようなものがあります。
睡眠薬の副作用の一例
- 眠気
- めまい・ふらつき
- 頭痛
- 倦怠感
- 一過性の記憶障害など
だからこそ、医師の処方せんが必要な処方せん医薬品に定められているのです。
睡眠薬は、有効成分の種類や作用によって、以下の5つに大別されます。
- バルビツール系睡眠薬
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬
- 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
- メラトニン受容体作動薬
- オレキシン受容体拮抗薬
以下は、現在主流の、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬について、半減期で分類したものです。
効果が現れるまでの時間 | 効果が持続する時間 (半減期) |
主な睡眠薬(製品名) | |
超短時間型 | 1~3時間 | 2~4時間 | ハルシオン、デパス、マイスリー、アモバン |
短時間型 | 1~3時間 | 6~10時間 | レンドルミン、リスミー、エバミール、ロラメット、ロヒプノール |
中間時間型 | 1~4時間 | 20~30時間 | サイレース、エリミン、ベンザリン、ネルボン |
長時間型 | 3~5時間 | 30時間以上 | ドラール |
半減期とは、体内に吸収された薬が半分の量になるまでの時間のことです。つまり、長時間型の睡眠薬ほど、体内に薬が留まる時間が長くなり、長時間の効果が期待できます。
短時間型の睡眠薬ほど、短い時間しか体内に薬が留まらないということになります。
そこで、以下のように使い分けされているのです。
超短時間型 | 入眠障害(寝つきが悪い)に有効 |
短時間型 | 入眠障害、中途覚醒(夜中に目覚める)に有効 |
中間時間型 | 中途覚醒、早朝覚醒(早朝に目覚める)に有効 |
長時間型 | 中途覚醒、早朝覚醒に有効 |
実は、この中の入眠障害(寝つきが悪い)に有効とされる薬、超短時間型や短時間型の睡眠薬のことを、睡眠導入剤と呼んでいます。
睡眠導入剤については、次の項でご説明しましょう。
1.2 睡眠導入剤の効果と副作用
上述のとおり、効果が持続する時間(半減期)が短い睡眠薬を、特に睡眠導入剤と言います。主に寝つきの悪さを改善する場合に用いられます。
寝つきは悪いものの、一度眠ってしまえばその後の睡眠には問題がないという場合、超短時間型の睡眠導入剤でも、十分に対処できます。
超短時間型の睡眠導入剤の場合、持続時間(半減期)はとても短く、2〜4時間くらいです。
また、このような短時間型のお薬の場合、寝つきの悪さに対処するために、効果が現れるまでの時間が短いという特徴もあります。
基本的には、睡眠導入剤も睡眠薬と同じですから、効果も副作用も同じと考えて良いでしょう。
あえて異なる点を挙げるとしたら、睡眠薬の持ち越し効果が少ないということが挙げられます。
持ち越し効果とは、薬が翌日まで残ってしまうことによる弊害です。睡眠薬の副作用でも挙げたように、眠気、めまいやふらつき、頭痛などの症状が薬を服用した翌日に見られることがあります。
これら、睡眠薬や睡眠導入剤は、不眠などの睡眠障害の症状がひどい場合に病院で処方されるものです。病院での治療では、薬の処方と同時に、睡眠衛生教育や認知行動療法が行われることもあります。
また、生活習慣の乱れが原因の睡眠障害の場合には、生活習慣の改善を勧められます。
2.睡眠薬以外の薬
次に、睡眠薬とは違いますが、睡眠に効果があるとされる睡眠改善薬、漢方薬、サプリメントについてご説明しましょう。
2.1 睡眠改善薬の効果と副作用
睡眠改善薬は、一時的な寝つきの悪さや、一時的な眠りの浅さを解消するための薬で、薬局やドラッグストアなどで市販されています。
風邪薬などにも含まれる、眠くなる成分、ジフェンヒドラミンを用いて作られた薬です。睡眠改善薬の中でもよく目にする、ドリエルなどもジフェンヒドラミンが主成分です。
画像:エスエス製薬「ドリエル」
脳内にはヒスタミンという神経伝達物質があります。ヒスタミンが、ヒスタミン受容体と呼ばれる部分に結合すると、脳が覚醒してしまい、睡眠がとりにくくなってしまいます。
これを、ジフェンヒドラミンがブロックします。そうすると、脳の覚醒が抑制され、眠気を促すというメカニズムです。
効果が現れるまでの時間は、服用後約30分~1時間程度で、効果の持続時間は約7時間です。
睡眠導入剤に比べて長時間効果がある(半減期が短い)ため、持ち越し効果が心配になるかもしれませんが、睡眠改善薬は緩やかに眠気を誘うものです。そもそも、睡眠薬と比較すると、それほど効果が強いわけではありませんから、あまり気にすることはないでしょう。
と言っても、副作用がまったくないわけではありません。
睡眠改善薬の副作用の一例
- めまい
- 頭痛・頭重感
- 日中の眠気
- 一過性の記憶障害など
このような場合は、病院を受診しましょう。
2.2 漢方薬の効果と副作用
漢方薬は、植物や動物、鉱物などの中で薬効を持つもの(生薬(しょうやく))から作られる薬です。通常、複数の生薬を組み合わせて作られるので、一つの漢方薬でも様々な効果が期待できます。
病院でも処方してもらえますし、また漢方専門の薬局でも購入することができます。
睡眠に効く生薬には色々ありますが、漢方薬は、患者さんの体格や体質、生活スタイルに合わせて処方されるものですので、この生薬なら必ず効くというものはありません。また、体質改善が大きな目的ですから、即効性を期待するというよりは、長期的に服用して、徐々に改善していくというものです。
効果が弱い分、副作用も少ないですが、体質に合わないものを服用したりすると、やはり副作用は現れます。
漢方薬の副作用の一例
- 食欲不振
- 皮膚のかゆみ
- むくみ
- 不眠など
2.3 サプリメントの効果と副作用
サプリメントは、日常の食事では補いきれない栄養素(ビタミンやミネラル、アミノ酸など)を補うためのもので、薬ではありません。
睡眠の質を高めるためのサプリメントは、最近ではドラッグストアや、スーパー、コンビニなどでも購入することができます。
睡眠に効くと言われるサプリメントには、例えば以下のようなものがあります。
- 睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの材料となるトリプトファンを含むもの
- リラックス効果を高める成分(グリシン、GABA、テアニンなど)を含むもの
天然の成分から作られているものが多く、また、栄養素を補うという目的で使用するものですので、基本的には副作用は心配することはないでしょう。
ただし、摂取し過ぎることで、特定の栄養素が過多になり、それが過剰症と言われる症状を招くことがありますので注意してください。
薬以外にも対処法はある
ここまで、不眠などの睡眠障害を薬で治すために、最低限知っておいていただきたい知識をご紹介してきました。
しかし、まだ初期の段階なら、必ずしも薬に頼らなくても、他の方法で改善できるかもしれません。
そこで、薬以外の対処法について、少しご紹介したいと思います。
1.食事
サプリメントの項でも出てきたトリプトファンですが、これは私たちの普段の食事からある程度は摂取できるものです。
トリプトファンは、以下のような食品に多く含まれています。
- 肉類
- 魚介類
- 乳製品
- 大豆などの豆類
睡眠の質を改善するには、300~1,000mgのトリプトファンが必要と言われますが、バランスの良い食事で100~300mgは摂取できますので、食事内容を見直すだけでも睡眠の質の改善につながります。
2.生活習慣
また、生活習慣の乱れから生じる睡眠障害では、やはり生活習慣を正すことが大切になってきます。
例えば、夜型の生活を送っていると、だんだん体内時計が乱れてしまい不眠になることがあります。こういった場合は、やはり朝型の生活に戻す必要があるでしょう。
また、寝る直前までスマートフォンを使用していることで、脳の覚醒状態が続き、眠れなくなることがあります。このような場合は、スマートフォンの使用は寝る数時間前には止める方が良いかもしれません。
他にも、生活習慣が睡眠障害を引き起こす原因になっている場合はたくさんあります。ぜひ下記の記事を参考にしてください。
こんな場合は、お医者さんへ!
薬を使うか使わないかによらず、不眠の改善方法には色々な方法があります。
ですが、自分の睡眠障害がどんなものなのかがよく分からないと、病院に行けば良いのか、市販薬で良いのか、はたまたそれ以外の方法でも改善するものなのかが分からないと思います。
そこで、睡眠について簡単に診断できる方法を一つご紹介しましょう。
「アテネ不眠尺度(AIS)」と言って、世界保健機関(WHO)が設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が作成したという方法で、客観的に睡眠のレベルを測ることができる方法です。
アテネ不眠尺度(AIS)
以下の質問について、過去1カ月間の間に、少なくとも週3回以上そのようなことがあったという場合をチェックしてください。チェックした項目の点数をすべて足し、その合計点で診断します。
A.寝つき(布団に入ってから眠るまで要する時間)
いつも寝つきは良い | 0点 |
いつもより少し時間がかかった | 1点 |
いつもよりかなり時間がかかった | 2点 |
いつもより非常に時間がかかったか、まったく眠れなかった | 3点 |
B.夜間、睡眠途中に目が覚める
問題になるほどではなかった | 0点 |
少し困ることがあった | 1点 |
かなり困っている | 2点 |
深刻な状態か、まったく眠れなかった | 3点 |
C.希望する起床時間より早く目覚め、それ以上眠れなかった
そのようなことはなかった | 0点 |
少し早かった | 1点 |
かなり早かった | 2点 |
非常に早かったか、まったく眠れなかった | 3点 |
D.トータルの睡眠時間
十分である | 0点 |
少し足りない | 1点 |
かなり足りない | 2点 |
まったく足りないか、まったく眠れなかった | 3点 |
E.全体的な睡眠の質
満足している | 0点 |
少し不満 | 1点 |
かなり不満 | 2点 |
非常に不満か、まったく眠れなかった | 3点 |
F.日中の気分
いつもどおり | 0点 |
少し滅入った | 1点 |
かなり滅入った | 2点 |
非常に滅入った | 3点 |
G.日中の身体的および精神的な活動状況
いつもどおり | 0点 |
少し低下した | 1点 |
かなり低下した | 2点 |
非常に低下した | 3点 |
H.日中の眠気
まったくなかった | 0点 |
少しあった | 1点 |
かなりあった | 2点 |
激しかった | 3点 |
結果
合計点が1~3点 | ⇒睡眠障害の心配はないでしょう。 |
合計点が4~6点 | ⇒不眠症が少し疑われます。まずは食事や生活習慣に気をつけましょう。 |
合計点が6点以上 | ⇒不眠症が疑われます。病院で診断してもらうのが良いでしょう。 |
いかがだったでしょうか。
もし合計点が6点以上だとしても、あまり深刻に悩み過ぎると、そのことがかえって不眠の原因になったりもします。この診断結果を、ご自身の睡眠や生活の習慣について見直すきっかけにしてください。
また、6点以下でも、症状がひどかったり、長引くようなら、早めに医師の診断を受けるようにしましょう。
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